三曹がにこやかに話しかけてくる。
「えっと・・・カシハタさん、初めまして。三曹のヤマダと申します。ここはどこでお知りになったんですか?」
新宿の飲み屋で知った事を話すと、男たちは異常な反応を見せた。ヤマダは驚きと喜びが混ざり合った顔で興奮を隠さずにまくしたてた。
「えーっ!新宿、と言うと”ふるさと”ですよね?カシハタさんが初めてですよ、あそこの広告を見てから来た人は。そうですか、そうですかァ!広告を出した甲斐がありましたねぇ!」
そこにある、そう判っているワナにかかったイノシシ、そして初の獲物に狂喜する猟師たち、そんな絵が頭に浮かんだ。
新宿のはずれ、どちらかといえば西新宿寄りのあの店は、自衛隊関係者の溜まり場になっているのだろうか。それとも元自衛官が経営しているのだろうか。CMというわけでもなく、ただ延々と表示されているのは、五反田案内所の住所と連絡先のみ。あの広告を見てくる物好きはそうそういないだろう。しかも、たった二つのその情報さえ、エラー表示の陰になって半分隠れているのだ。
50代がメイン客層の店。
エラー表示が出た広告。
37歳が年齢制限の予備自衛官制度。
「次がくることはないと思うよ」そう言いかけて、やめた。
予備自衛官制度についてひと通り説明を受けた後、試験について聞いた。
5科目(国・数・英・理・社)の学科試験、及び厳正な身体検査を通過できた者のみが兵隊になれるのだ。身長体重に問題はなさそうだが、視力という項目がある。
「最近は視力で外される人が多いんです。裸眼でどのくらいですか?」
裸眼で0.1を下回ると兵隊にはなれないが、ギリギリのラインだろう。基準に満たないかもしれない事を伝えると、ある方法を教えてくれた。絶対に大丈夫な方法を・・・
しきりにお茶をすすめられながら、至れり尽せりの時間が過ぎた。良い身体をしている、君なら絶対大丈夫、よい経験ができる、わずかばかりだが給料も出る、なにより国に貢献できる、そんな言葉をささやかれながら案内所を後にした。
「ま、やってみるか。」
煙草に火をつけると、どんよりとした雲から、ポツリ、ポツリと降り始めた。
(おわり)
※この話はフィクションです。
で、やってみるのか?まじで?
やるよー。
願書も貰ってきたし、なかなかおもしろそうなんだよね。匍匐前進とかやってみたいし。